|
◆中国 1−3 日本
得点: 22分 福西 31分 李明 65分 中田 92分 玉田
![]() 地下鉄の駅で見かけた中国サポ ![]() 地下鉄駅からスタジアムまで、国旗などの売り子が大量に出没 ![]() 中国球迷。写真を撮らせてくれた球迷は、おそらく私を中国人だと思ったのだろう。 ![]() ”死んでも勝つ”という意味だそうだ ![]() チケのない中国球迷 ![]() 寄せ書き。ほとんどいたずら書きのようになっていた ![]() 入り口でフラッグの棒やペットボトルを回収。といっても自己申告で手荷物検査はなかった。 ![]() ![]() 以礼待客。スタンドの客はこの言葉の意味がわからないらしい。 ![]() ![]() 隣にいた外人サポ。 ![]() 大使館の人は、バスの手配に奔走していた。 ![]() 日本人を1箇所に誘導する張り紙。試合終了後に気がついた。 ![]() 軟禁から開放された日本サポ。お疲れです。 ![]() 関係ないが、人間のホルマリン漬け(自然博物館) |
まさか、こんなことになるとは思わなかった。
夏休みの北京旅行+アジアカップ観戦を計画したとき、もし決勝で日本か中国が見られればいいな、くらいにしか思っていなかった。
そもそもアジアカップは、日本での注目度は低く、2軍を送って適当にやっとけ的な、その程度の存在でしかなかったはずだった。
まさか、ホスト国の中国が、ここまでこの大会へのタイトル奪取に命を懸けていたとは、まさかここまで見境なく大会を盛り上げようとするとは、本当に夢にも思っていなかったのだ。
ユルい雰囲気で重慶に乗り込んだ日本。そこへ突如浴びせられた”反日感情”に、日本人は驚き、困惑した。中国人の日本に対するブーイングや野次は、すぐに国際問題に発展したが、それでも反日感情は一向に収まる気配を見せない。
この不条理な中国側の態度に、日本でも反中感情が爆発。試合のことはそっちのけで、毎日毎日中国での反日感情について新聞やテレビで報道され、ついに政治家まで出てきて暴言を吐いたり、”遺憾の意”を表明するなど、収拾がつかなくなっていった。
アジアカップって、サッカーの大会じゃなかったっけ・・・??
北京へ何しに行くのかわからなくなった私は、いっそ行くのをやめようかとも思った。
しかし、もう飛行機のキャンセル料が100%掛かってしまうこと、そして、中国で何が起こっているのか、少しでも自分の目で確認したいこともあって、憂鬱な気持ちで5日に出発した。
試合のチケットは、もともと中国にしては高額だったこともあり、急がなくても何とかなるだろうと思っていた。ところが、日中戦という、いろいろな意味で出来すぎのカードとなった決勝は、北京でも高騰。どうなることかと思ったが、大連在住の方が手配してくれて、ようやく手に入れることが出来た。
6日、3位決定戦が行われている工人スタジアムへ行ってみた。
翌日はここで決勝が行われる。この日スタンドはガラガラだったが、スタジアムの外では大勢のダフ屋が商売にはげんでいた。
私が日本人だとわかると、大勢寄ってきた。売りつけてくるのはもちろん決勝のチケット。200元のチケが600元、800元のチケは1500元と、かなり高騰している。
ダフ屋のひとりに明日のスコア予想を聞くと、スコアはわからないが、間違いなく中国が勝つという、”小日本”に負けるわけがない、”小日本””小日本”と連発する。
7日、決勝当日。
前日、暗い中道に迷ってしまい、あちこち歩き回ったせいか、起きてみると、右足が異様に痛い。ただでさえ行きたくないのに、ますます行く気がしなくなる。
正直、命がけで観戦するほどの試合だろうか? サッカーとまるで関係ない政治的な話に、なぜこんなに振り回されなければならないのか、中国が好きで訪ねてきているのに、なぜ”小日本”呼ばわりされなけらばならないのか。
バカバカしくなってくる。
地下鉄東四十条駅から歩いて10分ほどのところに、工人体育場はある。
駅に着いたのはキックオフ1時間前の午後7時ごろ。
駅からスタジアムまでの道すじは、中国の国旗やチアホーン、代表のユニがそこらじゅうで売られている。
途中、何人かの中国球迷に写真を撮らせてほしいと頼んだところ、露骨な敵意むき出しの目でにらまれた。
・・・全く怖くないのだが。
こっちはもう10年以上も好きなサッカーを追いかけている。ロクにサッカーを見てないガキどもに、甘く見られる筋合いはない。
その後は、手振りだけで写真を撮らせてほしいと頼むようにした。これが意外とうまくいった。しゃべらなければ日本人だとわからないようだ。
日本人は、一か所に集められると聞いていたのだが、どこで観戦するのかわからない。
しかもスタジアムの周りは照明も暗く、ほとんど何も見えないので、そのままチケットに書かれた席へ着いた。
この期に及んで、「中に入れば日本人もたくさんいるだろう」と気楽に考えていたのだが、とんでもない状況だった。
バックスタンド中央の2階席1列目。位置的には、最高の観戦ができるはずの席だった。
「小日本!シャービー!!」
残念ながら、見たところ周囲に日本人はひとりもいなかった。試合開始前から、中国人たちが口汚い野次を飛ばしまくっている。
君が代が流れれば「座ろうぜ!座ろうぜ!」と着席し、ブーイングに激しい野次。
思えば北京に来て聞いた言葉は、暴言ばかりだったような気がする。それはもうホント、うんざりするほどに。
02年にW杯の韓国戦を観戦したが、そのときとはまったく雰囲気が違う。
韓国戦は、こういう殺気を感じなかった。むしろ、基本的にはまったりモードで観戦している人が多かった。
しかし、この試合の中国人は違った。中国国歌が流れたとき、後ろを振り向いてみてギョッとした。彼らの目は、完全にイッている。大声で国歌を熱唱する彼らの目は、ほとんどカルト宗教の信者のようだ。
どうひいき目に見ても、サッカーを見に来たようには見えない。彼らはどう見てもサッカーファンではない。
ただ単に幼稚な”愛国心”を煽られて、熱くなってしまっている小市民だ。
中国政府は、反日感情についていろいろ理由付けをしていたが、何が歴史認識の相違だ。笑わせないでもらいたい。
おそらくここにいた中国人は、歴史なんかロクに知らないヤツでも、君が代に野次を飛ばしていただろう。
実際、私の後ろには小学校低学年くらいの子どもがいたが、大人たちと一緒になって、「小日本!シャービー!!」と叫んでいたのだから。
日本は、何としてでも勝たなければならなかった。中国は、日本と、そしてサッカーを侮辱したのだ。
しかし、私たちが気を揉むまでもなく、あっさり勝負は決まった。サッカーの神様は、サッカーを愛さない者には決して微笑まない。試合は、結果、内容ともに日本の圧勝だった。
日本が取った3得点のうち、2点目はハンドだと言われているが、あの得点が認められなかったとしても、中国は日本に勝つことは出来なかっただろう。
中国は肝心なセットプレーで怖さを感じさせず、得点源となるハオハイドンへはまったくボールが渡らない。
あとでテレビのニュースで見たのだが、ハオ社長の真っ青な顔色に驚いた。足のケガ、頭のケガで、実際はもう限界に来ていたのかもしれない。
後半、ハオ社長が得点力のない李毅と交代したとき、これで日本は勝ったと思った。
日本は、守備については加地のプレーがヒヤヒヤものだったが、それでも中国からこれ以上得点を奪われるとは思えなかった。中国の決定的なチャンスも、中沢や川口がよく潰していった。
2点目は、スタンドからは、ハンドなのかよく見えなかったこともあり、周りの中国人は一気に静まり返り、3点目が入ると、彼らはゾロゾロ帰り始めた。
試合終了の笛が鳴った。
「ざまあみろ」
最初に心によぎった正直な気持ちだ。
しかし、心からの喜びも感動もなく、この気持ちはすぐにどうしようもない空しさに変わった。
W杯予選で、中国がクエートや香港に勝ったとき、どれだけうれしく思ったことだろう。
それが、こんなつまらないことで、ここまで後味の悪い思いを抱くことになるとは。
サッカーを見るなら「好き」「嫌い」「おもしろい」「おもしろくない」、これくらいの感情だけで十分だと思う。
たとえクソ試合であっても、好きなチームの試合を見て手に汗握ったり、勝利に感動したりする。
それがサッカーを愛するということでもあり、サッカーファンとしての喜びではないのか。
相手チームを口汚く罵り、試合が終わる前に帰っていった中国人は、いったいここへ何しに来たのだろう。
携帯が鳴っているのがわかったが、まだ出ることはできなかった。
周囲にはまだ中国人がいて、日本語で話すことが危険だと感じたからだ。
表彰式に残っていた中国人はほとんどいなかったが、最後の最後まで、日本へのブーイングや野次は止まなかった。
表彰台に立った日本代表に、さかんに罵声が飛んだ。
表彰式が終わった後、日本サポーターのほうへ移動してみた。周囲は警察が固めていて、「日本人だ」と言っても通してくれない。ためしにパスポートを見せたところ、やっと入ることが出来た。
ところがどっこい、それで喜んでばかりもいられなかった。
警察官に周囲を固められたまま、日本のサポーターは、その後2時間以上もスタンドで軟禁状態となった。
「しまった。すぐ帰ればよかった・・・」と思ったが後の祭りだ。
外で中国人が暴れてるらしい。車両もひっくり返してるらしい。というウワサばかりが飛び交うのだが、いつになったら帰れるのか、さっぱりわからない。
ここにいた日本サポーターと話をしてみると、観戦した場所が異なることもあって、試合の感想に多少違いがあることに気がついた。
この中で、報道関係者らしき人と話をしたのだが、彼が「ここにいると中国人のブーイングが聞こえない。君が代にブーイングしてたかどうかわからない」と言っていたのには驚いた。わからないなら、ちょっと行って見てくればいいじゃないかと思うのだが。たとえ中国サポのど真ん中に入っても、よっぽど挙動不審な行動を取らない限り、日本人だとバレることはなかったと思う。日本の報道で目立つのは、自分たちは安全なところにいて、きれい事を書き散らかしたり、わかったようなことを書いて勝手に結論付けてしまうところだ。だけどそれでは情報操作につながる可能性があるし、もっと事実を伝える努力をしてほしいと思う。
12時をまわり、ようやくバスの準備が整った。疲れきったサポーターは次々とバスへ乗り込み、建国門という地下鉄の駅などで降ろされた。
スタジアムを出るとき、日本代表のバスが止まっているのが見えた。彼らもまだ帰っていなかったのか。
サポーターの暴動などは収束していたようだったが、道路に警官が5メートルおきくらいに立っている光景は、かなり壮観ではあった。
タクシーをひろってホテルに着いたときは、1時を過ぎていた。
こうして、すっきりしない不愉快な気持ちのまま、長い1日は終わった。
8日朝、試合直後に電話をくれたKさんに連絡してみた。
Kさんは少し興奮した声で、「ざまあみろだ!ざまあみろだよ!」と言った。
ああ、この人までこんなことを言うのか。
Kさんは物心ついたときからサッカー漬けの日々を送ってきた人で、現在は地元のサッカー協会の理事を務めている。ヨーロッパだけでなく、南米、アジアのサッカーにも詳しい。その記憶力は驚くべきものがあって、観戦した試合の内容をほぼ正確に覚えている。ハオ社長についても、「92年広島大会のときからずっとファンだった。釜本よりもすごいと思うよオレは。」と言っていた。
サッカーを冷静に見る目を持っているし、02年日韓W杯の際、韓国戦のジャッジについても「あのくらいはしょうがねえだろ」とも言っていた。そんなKさんの口から飛び出した「ざまあみろ」という言葉。
彼は、最後に吐き捨てるようにこう言った。「日本と中国では、プロとアマくらいの差があったよ。基本技術、戦術、精神力。どれをとっても日本よりも劣っているのに、それを反日感情だけで勝とうなんて、世の中そんなに甘くねえんだよ。」
Kさんをはじめ、これまでも、中国のサッカーを正当に評価している人はいくらでもいたのだ。それなのに・・・。
中国サポーターは、日本サポーターの反感を買い、いったい何がしたかったのか。
この日、予定では、万里の長城に行ってみるつもりだった。しかし、足がますます痛くなり歩くのもおっくうで、おまけにカゼをひいてしまったようだ。観光にもいまいち身が入らないまま日が暮れてしまった。
夜には、中国のクラブチームの試合が行われ、テレビでも放送されていた。前日決勝に出場していた孫祥も、上海申花でプレーしていた。笑ったのは、スタンドが絶望的なほどガラガラだったことだ。あの”熱狂的な”サポーターは、どこへいってしまったのだろう。
9日、ようやく帰国の日を迎えた。
不愉快さと空しさに襲われただけの5日間だった。
無事に飛行機に乗ったところで、緊張の糸がプッツリ切れた。
トイレに立ったとたん、何か目の前が真っ暗になった。トイレの前まで行ったが、そのままぶっ倒れてしまった。「大丈夫ですか?!」とスチュワーデスさんに声を掛けられ、すぐに意識は戻ったが、頭がぼーっとしてすぐに立ち上がることが出来ない。「お客様の中で、お医者様はいらっしゃいませんか?!」という機内アナウンスがかすかに耳に入ってくる。ああ、よくテレビでよくやってるけど、本当に呼びかけるんだなあ。と回らない頭で思った。
アジアカップは、いったい何だったのか。
最後まで踏んだり蹴ったりの目に遭いながら、私はこの散々だった旅を終えた。